
2026年9月9日、愛知県トラック協会 青年部会の研修で講師を務めました。テーマは「Geminiで始める、数字の"見える化"実践研修」。会場は名古屋市瑞穂区の愛知県トラック総合会館、14時から16時30分までの2時間半です。
運送業の経営者・管理者・実務担当の方に向けて、前半で生成AIのいまをお話しし、後半は架空の運送会社の数字を Gemini に読ませて、赤字の原因を探すワークを2回行いました。今回はその中身を整理します。運送業以外の方にも、そのまま使える考え方です。
当日の構成
| パート | 内容 | 使った道具 |
|---|---|---|
| 第1部 | 生成AIのいま/「やってくれるAI」への変化/事前にいただいた質問への回答(AIとセキュリティの考え方など)/就業規則をAIに点検させる実演 | スライド・NotebookLM・Gemini |
| ワーク1回目 | 1年分の月次データから「おかしな月」を見つける | Gemini(表の読み込み) |
| ワーク2回目 | その月を路線別に分解し、赤字の原因を探す | Gemini(新しい会話で実行) |
当日の準備は「Googleアカウントでログインできること」だけ。会場ではスクリーンのQRコードから配布ページを開き、サンプルデータ(CSV)と質問文をその場で手に入れてもらう形にしました。
ワークの組み立て:「全体を見る → 1か月だけ掘る」
事前の打ち合わせで青年部会の方から伺ったのは、「集計はしているけれど、数字から次の手を考えるところまで手が回らない」という声でした。そこでワークは、ドリルダウン(全体から1点を選び、そこだけ細かく見る)の2段構えにしました。
1回目:年間の数字で「おかしな月」を見つける
使ったのは、架空の運送会社の1年分(2025年4月〜2026年3月)の月次データです。売上・燃料費・高速代・修繕費・リース料・人件費・稼働台数・走行距離が並んでいます。
これを Gemini に読ませて「年間で見て、気になる月はどこか」と聞くと、浮かび上がるのが 2026年1月 です。売上は1,650万円と年間で最も低いのに、車両修繕費は118万円と年間で最も高い。経費を足し上げると1,690万円で、この月だけ40万円の赤字になります。
2回目:その1か月を、路線別に分解する
次に、同じ会社の「2026年1月の路線別データ」を渡します。9つの路線と「回送・待機・共通費」に分けた表で、経費と走行距離の合計は1回目の1月の数字とぴったり一致し、売上も路線に含まれない「その他売上」60万円を足すと一致するように作ってあります。
ここで Gemini に「なぜ1月は赤字なのか」を聞くと、見えてくるのはこんな姿です。
| 見えてきたこと | サンプルデータでの数字 |
|---|---|
| 近距離の三河⇄名古屋ピストンは積載率91%で、しっかり黒字 | 売上180万円 |
| 名古屋⇄静岡は積載率58%。売上147万円に対して経費144万円で、利益はほぼ出ていない | 粗利 約3万円 |
| 名古屋⇄仙台は1月の雪で燃料・時間がかさみ、最も大きな赤字 | 売上142万円に対し経費169.5万円 |
| 荷物を積まずに走る「回送・待機」が、全走行距離の約26.5%を占める | 33,448km / 126,000km |
※いずれも研修用に作った架空のサンプルデータです。
1年分の表を眺めているだけでは「1月は売上が低かった」で終わってしまいます。1か月だけを路線で割ってみると、「どの便を見直すか」「空で走っている距離をどう減らすか」という、次の打ち手の話に変わります。AI の役目は、この「割って、並べて、目立つところを指さす」までの下ごしらえです。どの路線を続けるか、荷主とどう交渉するかを決めるのは、もちろん経営者です。

2回目は「新しい会話」で聞く
小さな工夫ですが、2回目のワークは前の会話の続きではなく、新しい会話を開いてから始めてもらいました。前の会話が長く残っていると、AI がそれに引っぱられて答えがぶれることがあるからです。質問文も「あなたは運送会社の経営分析の担当です」という役割の説明から始まる、単独で使える形にしました。AI の答えを安定させるこの考え方は、「AIに聞くたびに答えが違う」を止める3つの設定でも詳しく書いています。
事前にいただいた質問への答え
申込の段階で参加者から質問をいただき、第1部の中で答えました。とくに多かったのは、入力した情報はどう扱われるのか、セキュリティはどう考えればいいのかという不安です。
私がお伝えしたのは、「AIを使うかどうか」より先に、会社として何を入れてよくて、何を入れないかを決めることが大事だ、という整理です。会社で契約した Google Workspace と個人の無料アカウントでは、データの扱いが違います。その違いを知ったうえで、どこまで使うかを決めるのは経営者の判断です。今回のワークで架空のサンプルデータを使ったのも、そのためです。
運送業の経営者に伝えたかったこと
運送業は、燃料・高速代・人件費・車両費と、数字の種類が多い業種です。そしてその数字は、たいていどこかの表にすでに入っています。足りないのは、それを「見て、考える」時間です。
その時間を AI が肩代わりしてくれる。年に1回、決算書を見て「去年はこうだったな」と振り返るのではなく、毎月、気になる月を見つけて、その月を割って見る。この習慣があるかどうかで、打ち手の早さが変わってきます。
自社の数字を1画面にまとめる方法は経営数字の「1画面ダッシュボード」をAIと一緒にSheetsで作るで、毎月の集計そのものを自動にする方法はGoogleスプレッドシートの集計を、毎朝AIに自動でやらせるで紹介しています。
同じ内容を、自社のデータで手を動かしながら学びたい方は、LABOの講座をご覧ください。協会・団体での研修のご相談も、お問い合わせからお受けしています。
**あなたの会社で、去年いちばん苦しかった月はいつでしたか。**その1か月を割ってみるところから、数字の"見える化"は始まります。
よくあるご質問
Q. 運送業でなくても、同じやり方は使えますか?
A. 使えます。「1年分の月次の数字で、おかしな月を見つける → その月だけを細かく分けて原因を探す」という順番は業種を問いません。運送業なら路線別、製造業なら製品別や得意先別、飲食業なら店舗別に置き換えれば同じ形になります。
Q. 自社の本物の数字を Gemini に読み込ませても大丈夫ですか?
A. 会社として契約している Google Workspace の Gemini と、個人の無料アカウントとでは、入力したデータの扱いが異なります。セミナーでは安全のため架空のサンプルデータを使いました。本物の数字を扱う前に、契約プランとデータの扱いを確認し、社内のルールを決めてから始めてください。
Q. パソコンが苦手な社員でもできますか?
A. 当日の準備は「Googleアカウントでログインできること」だけにしました。表をGeminiに読み込ませ、用意した質問文を貼り付けて聞く、という操作なので、表計算の関数を書けなくても進められます。


