TSUNAGARU AI LABO
事例11

多店舗の飲食業が「店舗ごとの数字」を1画面にまとめる — 老舗自家焙煎珈琲店の取り組み

5店舗+ECを回す老舗の自家焙煎珈琲店。ASPITなどの現場ツールはそのまま残し、その上に「経営から一望できる1画面」を乗せる。売上・原材料費率・店長カルテ・シフトまでを店舗別に見える形にした、三重県の老舗飲食業と一緒に組んだ取り組みを匿名の事例としてお伝えします。

中屋 茂美の顔写真

中屋 茂美

TSUNAGARU AI LABO 主宰/株式会社TRAVEL CREATE 代表

老舗の珈琲店の店内でカウンター越しに、店舗別の売上・粗利・客数がひとつのダッシュボードにまとまっていく様子を捉えたドキュメンタリー写真イメージ

「うちは店ごとに毎日ちゃんと数字をつけているんです。ただ、それを1枚にまとめて『どの店で何が起きているか』を見るのに、毎月時間がかかりすぎている」。三重県内で複数店舗+ECを回している、老舗の自家焙煎珈琲店の代表から、こう相談を受けました。

この記事は、そこから一緒に組み立てた「経営から一望できる1画面(=統合ダッシュボード)」の取り組みを、匿名の事例としてお伝えするものです。私(中屋)自身も自社の6事業で似た課題を経験しており(6つの事業の月次数字を『1画面』で見られるようにした話)、この"分散を1つに"の感覚には強い共感がありました。

この事例のまとめ

項目 内容
業種 / 規模 / 地域 飲食業(老舗の自家焙煎珈琲店) / 複数店舗+EC+自家焙煎 / 三重県内
期間 2026年夏に着手。実データを埋め込んだ経営分析モック(=実際の月次数字で動く試作)を一緒に組み、代表・店長へのお披露目→段階的な本番運用への移行を進めている段階
課題 各店舗が毎日「進捗管理表」を紙とスプレッドシートで手入力。店舗ごとに独自の管理システム(飲食店向けの一元管理ASP)と重複している部分がある。月末の月間報告・月間活動計画書も紙/Excelで手転記されており、経営として「店舗ごとの粗利率・原材料費率・人件費比率」を横並びで比べるまでに時間がかかる
設計したもの ①店舗別の売上・客数・客単価・粗利・人件費・原材料費率を1画面に並べる経営ダッシュボード ②店舗ごとの「店長カルテ」(財務6軸+本部評価4軸のレーダー)③明日の売上予測と、必要人数の目安を出す簡易版のシフト設計画面 ④現場の器(既存の一元管理ASP)はCSV連携でつなぎ、置き換えない設計
Before → After(設計上のねらい) 店ごとの数字を月末に手集計 → 現場の入力が終わったところから自動で1画面に集約
「どの店で原材料費率が上がったか」を月次会議で口頭確認 → 店長カルテのレーダーで一目で分かる
紙の月間活動計画書に前月の数値を手転記 → 財務側の実績値をそのまま自動反映(QSCや所感などの店長入力欄は残す)
人が確認する範囲 店長の入力(QSC・所感・次月改善)と、店舗構造が変わったとき(新店舗追加・組織変更)の"読み取り方"の見直しは、必ず人が行う。売上予測・シフト目安はあくまで下書きで、最終判断は店長が行う

※内容は実際の支援に基づきます(一部匿名化)。数値の"何%改善"のような厳密計測は運用フェーズで進めています。

現実:現場は毎日数字をつけているのに、経営から見えない

老舗の飲食業には、独特の強みがあります。「毎日数字をつける文化」がある。売上、客数、客単価、時間帯別、商品別、原材料費、人件費——このお店でも、店舗ごとに紙とスプレッドシートで丁寧に記録されていました。

一方で、経営から見た困りごとは、こういう形で出てきます。

  • 店舗ごとの粗利率・原材料費率を横並びで比べたいのに、シートの様式が店舗ごとに少しずつ違う
  • 飲食店向けの一元管理ASP(POSレジ/仕入/勤怠)にも数字が入っているが、進捗管理表と二重入力になっている箇所がある
  • 「どの店で、いつから、原材料費率が上がったか」を月次会議で口頭説明することになり、資料づくりに時間がかかる
  • 月間活動計画書は紙で運用されており、前月の実績値を店長が手で転記している

現場の入力レベルは高いのに、経営から見える形になるまでの"下ごしらえ"だけで、時間が溶けていく。この構造は、店舗が複数になってくると起きやすい悩みです。

店舗ごとに手書きの日報とスプレッドシートが並ぶ現場のフラットレイ写真イメージ

逆転の発想:現場の器は残す。上に「経営から見える画面」を乗せる

このとき最初に決めたのは、**「一元管理ASPは置き換えない」**という方針でした。理由は3つあります。

  1. 現場の器を替えると、日々のオペレーションが揺らぐ。POSレジや勤怠は、現場が毎日使っている命綱の道具なので、置き換えは慎重に進めたい領域です
  2. 飲食向けの一元管理ASPには、CSVで数字を取り出せる導線が用意されているものが多い。仕入・売上・人件費・在庫などのCSV出力に対応していれば、無理に置き換えなくても経営側で数字を集めやすくなります(対応範囲は契約プランやサービスによって異なるので、事前に確認します)
  3. 「上に1枚乗せる」ほうが、失敗しても戻れる。何かあれば、上の画面を止めれば従来どおりに戻ります

そこで組み立てたのは、現場の器(一元管理ASP)と、店舗ごとの進捗管理表を、そのまま活かしたうえで、経営が見る側だけを1枚のダッシュボードに集約するというやり方です。

具体的には、次のような画面を1つのモックにまとめました。

画面 何を見せるか 誰のためか
経営ダッシュボード 全店合算+店舗別の売上・客数・客単価・粗利・営業利益・原材料費率・人件費比率 代表
店舗別カルテ 店舗ごとの月次実績を1ページに集約。前月比・前年比・目標比 代表・店長
店長マネジメント10軸レーダー 財務6軸(売上達成・昨対・粗利・客数・客単価・生産性)+本部評価4軸(QSC・計画実行度・人材育成・発信集客) 代表・エリアマネージャー
明日の売上予測 曜日別実績×天候係数などから、翌日の見込みを大まかに出す 店長
メニュー収益分析 販売数×粗利率の4象限で、メニューの立ち位置を見える化 店長・商品企画
月間活動計画書 実績欄は財務から自動反映。計画欄・QSC・所感は店長が入力。前月の月間報告のAI下書きボタンつき 店長

意外な難所:店舗ごとに、シートの"骨格"が微妙に違う

設計上いちばん時間がかかったのは、実は「読み取り」の部分です。

各店舗は同じ会社ですが、店ごとに歴史があり、進捗管理表の並び方が微妙に違います。ある店ではランチ・ディナー・カフェタイムを縦に並べ、別の店では横に並べる。ある店では商品KPIを別シートに切り出し、別の店ではまとめて記録している。この"癖"を潰して一律にすると、現場の毎日の入力が止まる——これは、月次PLを1画面にまとめた自社の経験でも痛感していた点でした。

そこで、店舗ごとに「読み取り方」を1つずつ登録する仕組みにしました。ダッシュボード側は同じ骨格ですが、"どのセルから何を読むか"の対応表を店舗ごとに持ちます。新店舗が増えたときは、その店の対応表を1つ足すだけで、経営ダッシュボードに並ぶようになります。

現場が受け入れた順番:「評価より、明日の準備」から届ける

もう1つ大事だったのが、**現場に届ける"順番"**です。

「店長マネジメント10軸レーダー」のような、店ごとの評点が見えるページは、いきなり出すと現場が身構えます。そこでお披露目のときは、次の順番で見せました。

  1. 明日の売上予測(=現場の準備に役立つ)
  2. 必要人数の目安(=シフトを組む店長の負担を減らす)
  3. メニュー収益分析(=商品企画の相談に使える)
  4. 店舗別カルテ(=月次会議の共有資料になる)
  5. 店長マネジメント10軸レーダー(=評価に踏み込む前の"現状の写真"として)

数字を「評価に使う」よりも先に、「数字が現場を助ける」ものとして届ける。この順番を意識するだけで、店長側の受け取り方は大きく変わります。

Before → After(設計上のねらい)

場面 Before After
店舗別の粗利率を並べて見る 月末に集計担当が手で並べる(数日) 現場入力が終わったところから自動集約
「原材料費率がどこで上がったか」 月次会議で口頭説明 店舗カルテとレーダーで一目
月間活動計画書の実績欄 店長が前月の値を手で転記 財務側から自動反映(計画・所感は店長入力)
明日のシフト設計 店長の勘+前週の来客数 曜日別予測×必要人数の目安を下書き提示
店長評価の共通のモノサシ 店ごとに感覚が違う 10軸レーダーで共通のモノサシを持てる

※After欄の効果は「設計上のねらい」であり、"何日短縮""何%改善"のような厳密な計測は運用フェーズで進めています。

次に活かすなら:ここから始めるのが軽い

もし多店舗で回している飲食業でこれから取り組むなら、以下の順で進めるのが軽いと思います。

  1. CSV出力を確認:いま入っている一元管理ASPやPOSレジから、売上・仕入・人件費のCSVが出せるかを確認する
  2. 1画面のモックから作る:全部の機能を最初から作らず、「経営ダッシュボード」1画面だけを試作する
  3. 1店舗で走らせてから広げる:1つの店舗の数字だけをつないで、経営側の見え方を確かめてから、他店舗を足す
  4. 順番は"明日の準備"から:現場に届けるときは、評価よりも「明日の売上予測」「シフト目安」から見せる

「基幹システムを入れ替える」と身構える必要はありません。現場の器はそのまま残し、上に1枚だけ薄い画面を乗せる。これが、多店舗の飲食業にとって、いちばん軽く始められる道です。

こうした取り組みは、名古屋・愛知の中小企業のための業務自動化 完全ガイドの中では「基幹システムを置き換えず、上に経営から見える層を乗せる」パターンに位置づけています。導入を検討する会社の選び方は中小企業がAI導入支援会社を選ぶ7つの視点にまとめています。


関連サービス: 私たちTSUNAGARU AI LABOでは、多店舗事業の「上に1枚乗せる」設計から、CSV連携・ダッシュボード試作・現場お披露目までを伴走しています。詳しくはサービス案内、料金の目安は料金ページをご覧ください。

無料相談のご案内: 「うちも店舗ごとに数字はつけているが、経営から見えていない」という段階からのご相談も歓迎です。無料相談フォームからお気軽にどうぞ。

よくあるご質問

Q. 会場のPOSや、いま入れている店舗管理システムは残すのですか?

A. はい、残します。今回のやり方は「現場の器はそのままに、上に1枚"経営から見える画面"を乗せる」考え方です。売上・仕入・人件費のCSVを機械が受け取り、経営が見る側だけを1画面にまとめます。現場のオペレーションは変えません。

Q. 何店舗くらいから意味がありますか?

A. 2店舗からでも取り組む価値はあります。「店舗ごとの粗利率」「店舗ごとの原材料費率」を並べて見られるだけで、どの店で何が起きているかが手触りで分かってくるからです。ただし、店舗の管理体制や集計負荷、投資できる工数によって適した進め方は変わるので、まずは1画面のモックから小さく試すのがおすすめです。

Q. 数字を触られると現場が身構えます。どう受け入れてもらいましたか?

A. 「数字を評価に使う」よりも先に、「数字が現場を助ける」ものとして届ける順番を大事にしました。たとえば「明日の売上予測」「今日は何人体制がちょうどよさそうか」など、現場が明日の準備に使える形で数字を返す。評価に使うのは、その次の段階です。

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