
「うちは店ごとに毎日ちゃんと数字をつけているんです。ただ、それを1枚にまとめて『どの店で何が起きているか』を見るのに、毎月時間がかかりすぎている」。三重県内で複数店舗+ECを回している、老舗の自家焙煎珈琲店の代表から、こう相談を受けました。
この記事は、そこから一緒に組み立てた「経営から一望できる1画面(=統合ダッシュボード)」の取り組みを、匿名の事例としてお伝えするものです。私(中屋)自身も自社の6事業で似た課題を経験しており(6つの事業の月次数字を『1画面』で見られるようにした話)、この"分散を1つに"の感覚には強い共感がありました。
この事例のまとめ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 業種 / 規模 / 地域 | 飲食業(老舗の自家焙煎珈琲店) / 複数店舗+EC+自家焙煎 / 三重県内 |
| 期間 | 2026年夏に着手。実データを埋め込んだ経営分析モック(=実際の月次数字で動く試作)を一緒に組み、代表・店長へのお披露目→段階的な本番運用への移行を進めている段階 |
| 課題 | 各店舗が毎日「進捗管理表」を紙とスプレッドシートで手入力。店舗ごとに独自の管理システム(飲食店向けの一元管理ASP)と重複している部分がある。月末の月間報告・月間活動計画書も紙/Excelで手転記されており、経営として「店舗ごとの粗利率・原材料費率・人件費比率」を横並びで比べるまでに時間がかかる |
| 設計したもの | ①店舗別の売上・客数・客単価・粗利・人件費・原材料費率を1画面に並べる経営ダッシュボード ②店舗ごとの「店長カルテ」(財務6軸+本部評価4軸のレーダー)③明日の売上予測と、必要人数の目安を出す簡易版のシフト設計画面 ④現場の器(既存の一元管理ASP)はCSV連携でつなぎ、置き換えない設計 |
| Before → After(設計上のねらい) | 店ごとの数字を月末に手集計 → 現場の入力が終わったところから自動で1画面に集約 「どの店で原材料費率が上がったか」を月次会議で口頭確認 → 店長カルテのレーダーで一目で分かる 紙の月間活動計画書に前月の数値を手転記 → 財務側の実績値をそのまま自動反映(QSCや所感などの店長入力欄は残す) |
| 人が確認する範囲 | 店長の入力(QSC・所感・次月改善)と、店舗構造が変わったとき(新店舗追加・組織変更)の"読み取り方"の見直しは、必ず人が行う。売上予測・シフト目安はあくまで下書きで、最終判断は店長が行う |
※内容は実際の支援に基づきます(一部匿名化)。数値の"何%改善"のような厳密計測は運用フェーズで進めています。
現実:現場は毎日数字をつけているのに、経営から見えない
老舗の飲食業には、独特の強みがあります。「毎日数字をつける文化」がある。売上、客数、客単価、時間帯別、商品別、原材料費、人件費——このお店でも、店舗ごとに紙とスプレッドシートで丁寧に記録されていました。
一方で、経営から見た困りごとは、こういう形で出てきます。
- 店舗ごとの粗利率・原材料費率を横並びで比べたいのに、シートの様式が店舗ごとに少しずつ違う
- 飲食店向けの一元管理ASP(POSレジ/仕入/勤怠)にも数字が入っているが、進捗管理表と二重入力になっている箇所がある
- 「どの店で、いつから、原材料費率が上がったか」を月次会議で口頭説明することになり、資料づくりに時間がかかる
- 月間活動計画書は紙で運用されており、前月の実績値を店長が手で転記している
現場の入力レベルは高いのに、経営から見える形になるまでの"下ごしらえ"だけで、時間が溶けていく。この構造は、店舗が複数になってくると起きやすい悩みです。

逆転の発想:現場の器は残す。上に「経営から見える画面」を乗せる
このとき最初に決めたのは、**「一元管理ASPは置き換えない」**という方針でした。理由は3つあります。
- 現場の器を替えると、日々のオペレーションが揺らぐ。POSレジや勤怠は、現場が毎日使っている命綱の道具なので、置き換えは慎重に進めたい領域です
- 飲食向けの一元管理ASPには、CSVで数字を取り出せる導線が用意されているものが多い。仕入・売上・人件費・在庫などのCSV出力に対応していれば、無理に置き換えなくても経営側で数字を集めやすくなります(対応範囲は契約プランやサービスによって異なるので、事前に確認します)
- 「上に1枚乗せる」ほうが、失敗しても戻れる。何かあれば、上の画面を止めれば従来どおりに戻ります
そこで組み立てたのは、現場の器(一元管理ASP)と、店舗ごとの進捗管理表を、そのまま活かしたうえで、経営が見る側だけを1枚のダッシュボードに集約するというやり方です。
具体的には、次のような画面を1つのモックにまとめました。
| 画面 | 何を見せるか | 誰のためか |
|---|---|---|
| 経営ダッシュボード | 全店合算+店舗別の売上・客数・客単価・粗利・営業利益・原材料費率・人件費比率 | 代表 |
| 店舗別カルテ | 店舗ごとの月次実績を1ページに集約。前月比・前年比・目標比 | 代表・店長 |
| 店長マネジメント10軸レーダー | 財務6軸(売上達成・昨対・粗利・客数・客単価・生産性)+本部評価4軸(QSC・計画実行度・人材育成・発信集客) | 代表・エリアマネージャー |
| 明日の売上予測 | 曜日別実績×天候係数などから、翌日の見込みを大まかに出す | 店長 |
| メニュー収益分析 | 販売数×粗利率の4象限で、メニューの立ち位置を見える化 | 店長・商品企画 |
| 月間活動計画書 | 実績欄は財務から自動反映。計画欄・QSC・所感は店長が入力。前月の月間報告のAI下書きボタンつき | 店長 |
意外な難所:店舗ごとに、シートの"骨格"が微妙に違う
設計上いちばん時間がかかったのは、実は「読み取り」の部分です。
各店舗は同じ会社ですが、店ごとに歴史があり、進捗管理表の並び方が微妙に違います。ある店ではランチ・ディナー・カフェタイムを縦に並べ、別の店では横に並べる。ある店では商品KPIを別シートに切り出し、別の店ではまとめて記録している。この"癖"を潰して一律にすると、現場の毎日の入力が止まる——これは、月次PLを1画面にまとめた自社の経験でも痛感していた点でした。
そこで、店舗ごとに「読み取り方」を1つずつ登録する仕組みにしました。ダッシュボード側は同じ骨格ですが、"どのセルから何を読むか"の対応表を店舗ごとに持ちます。新店舗が増えたときは、その店の対応表を1つ足すだけで、経営ダッシュボードに並ぶようになります。
現場が受け入れた順番:「評価より、明日の準備」から届ける
もう1つ大事だったのが、**現場に届ける"順番"**です。
「店長マネジメント10軸レーダー」のような、店ごとの評点が見えるページは、いきなり出すと現場が身構えます。そこでお披露目のときは、次の順番で見せました。
- 明日の売上予測(=現場の準備に役立つ)
- 必要人数の目安(=シフトを組む店長の負担を減らす)
- メニュー収益分析(=商品企画の相談に使える)
- 店舗別カルテ(=月次会議の共有資料になる)
- 店長マネジメント10軸レーダー(=評価に踏み込む前の"現状の写真"として)
数字を「評価に使う」よりも先に、「数字が現場を助ける」ものとして届ける。この順番を意識するだけで、店長側の受け取り方は大きく変わります。
Before → After(設計上のねらい)
| 場面 | Before | After |
|---|---|---|
| 店舗別の粗利率を並べて見る | 月末に集計担当が手で並べる(数日) | 現場入力が終わったところから自動集約 |
| 「原材料費率がどこで上がったか」 | 月次会議で口頭説明 | 店舗カルテとレーダーで一目 |
| 月間活動計画書の実績欄 | 店長が前月の値を手で転記 | 財務側から自動反映(計画・所感は店長入力) |
| 明日のシフト設計 | 店長の勘+前週の来客数 | 曜日別予測×必要人数の目安を下書き提示 |
| 店長評価の共通のモノサシ | 店ごとに感覚が違う | 10軸レーダーで共通のモノサシを持てる |
※After欄の効果は「設計上のねらい」であり、"何日短縮""何%改善"のような厳密な計測は運用フェーズで進めています。
次に活かすなら:ここから始めるのが軽い
もし多店舗で回している飲食業でこれから取り組むなら、以下の順で進めるのが軽いと思います。
- CSV出力を確認:いま入っている一元管理ASPやPOSレジから、売上・仕入・人件費のCSVが出せるかを確認する
- 1画面のモックから作る:全部の機能を最初から作らず、「経営ダッシュボード」1画面だけを試作する
- 1店舗で走らせてから広げる:1つの店舗の数字だけをつないで、経営側の見え方を確かめてから、他店舗を足す
- 順番は"明日の準備"から:現場に届けるときは、評価よりも「明日の売上予測」「シフト目安」から見せる
「基幹システムを入れ替える」と身構える必要はありません。現場の器はそのまま残し、上に1枚だけ薄い画面を乗せる。これが、多店舗の飲食業にとって、いちばん軽く始められる道です。
こうした取り組みは、名古屋・愛知の中小企業のための業務自動化 完全ガイドの中では「基幹システムを置き換えず、上に経営から見える層を乗せる」パターンに位置づけています。導入を検討する会社の選び方は中小企業がAI導入支援会社を選ぶ7つの視点にまとめています。
関連サービス: 私たちTSUNAGARU AI LABOでは、多店舗事業の「上に1枚乗せる」設計から、CSV連携・ダッシュボード試作・現場お披露目までを伴走しています。詳しくはサービス案内、料金の目安は料金ページをご覧ください。
無料相談のご案内: 「うちも店舗ごとに数字はつけているが、経営から見えていない」という段階からのご相談も歓迎です。無料相談フォームからお気軽にどうぞ。
よくあるご質問
Q. 会場のPOSや、いま入れている店舗管理システムは残すのですか?
A. はい、残します。今回のやり方は「現場の器はそのままに、上に1枚"経営から見える画面"を乗せる」考え方です。売上・仕入・人件費のCSVを機械が受け取り、経営が見る側だけを1画面にまとめます。現場のオペレーションは変えません。
Q. 何店舗くらいから意味がありますか?
A. 2店舗からでも取り組む価値はあります。「店舗ごとの粗利率」「店舗ごとの原材料費率」を並べて見られるだけで、どの店で何が起きているかが手触りで分かってくるからです。ただし、店舗の管理体制や集計負荷、投資できる工数によって適した進め方は変わるので、まずは1画面のモックから小さく試すのがおすすめです。
Q. 数字を触られると現場が身構えます。どう受け入れてもらいましたか?
A. 「数字を評価に使う」よりも先に、「数字が現場を助ける」ものとして届ける順番を大事にしました。たとえば「明日の売上予測」「今日は何人体制がちょうどよさそうか」など、現場が明日の準備に使える形で数字を返す。評価に使うのは、その次の段階です。


