
「注文は、今もほとんどFAXで来ます」。ある卸売業の会社で、代表からこう言われました。時代錯誤に聞こえるかもしれませんが、これは全国の中小企業でよくある現実です。
現実:FAXは、なくならない
取引先の中には、長年の商習慣でFAX注文を使っている会社がまだあります。「電子化してください」とお願いはできても、急には変えられないのが実情です。だからといって、こちらの事務員が延々と紙を見ながらシステムに手入力する状況は、続けるべきではありません。
現場ではこんな声がありました。
- 「毎日、まとまった枚数の注文書が届く」
- 「1枚ずつ入力していると、それだけで午前中の相当な時間が取られる」
- 「品番の打ち間違いが、ときどき出る」
問題は「FAXが来ること」ではなく、**「届いた後の転記作業に、人の時間を使いすぎていること」**でした。
逆転:取引先を変えず、自社の"後ろ側"だけを変える
代表と一緒に決めた方針はシンプルでした。
- 取引先には、これまで通りFAXで送ってもらう(相手のやり方は変えない)
- 社内に届いたFAXを、AI OCRで読み取り、注文システムに自動で流し込む
- AIの読み取り結果は、必ず人が最終確認する
「AIに全部任せる」ではなく、**「AIが下ごしらえをして、人が最終確認する」**分業に切り替えたということです。
やったこと(大枠だけ)
- FAX受信の一元化:紙で出力せず、複合機の設定を変えてPDFで指定フォルダに保存
- AI OCRで注文書を読み取り:品番・数量・納品希望日など、必要な項目だけを抜き出す
- 抜き出した内容を、注文システムへ自動で下書き登録
- 担当者は「入力」ではなく「確認」だけ行う(間違いがあれば修正)
大がかりなシステム開発ではなく、すでに社内にあるツール(複合機・スプレッドシート・注文システム)に、AIで橋を架けたイメージです。

起きた変化(現場での実感)
数字での厳密な計測は今後の課題として、現場ではまず以下のような変化がありました。
- 受注入力の作業時間が大きく減った(1枚ずつ入力していた工程が、AIが読み取った結果の"確認"に変わった)
- 品番の打ち間違いが減った(AIが抜き出した数字と、原本を照合する形になった)
- 午前中の相当な時間が入力で埋まる、ということがなくなった
大事なのは、削減した時間の使い先です。この会社では、空いた時間を「取引先への電話フォロー」「新商品の提案準備」に振り向けています。ただの人員削減ではなく、"人にしかできない仕事"に時間を戻せた、というのが本質的な成果です。
この事例から、他社に持ち帰れること
FAX注文だけの話ではありません。同じ考え方は、以下のような業務にも応用できます。
- 請求書の受け取り:受け取った請求書の内容を、会計システムに転記する作業
- 納品書の照合:発注データと、届いた納品書の突き合わせ
- 申込書・アンケート:紙で受け取ったものを、リストに転記する作業
いずれも「紙 → 転記」の間にAIを1枚挟むと、「入力」が「確認」に変わる構造は同じです。関連する考え方は請求書づくりの「転記」を無くす — 経理まわりの自動化の始め方にもまとめました。
中小企業に伝えたいこと
「うちの取引先はFAXだから、DXは無理」——そう言われる会社を、これまで何社も見てきました。ですが、取引先の商習慣は、こちらが変えるものではありません。変えるのは自社の"後ろ側"だけで十分です。
紙は届いてもいい。でも、そこから先の入力を人の時間ですべて埋める必要は、もうなくなってきています。この会社のように、「受けた後ろ側」だけをAIで軽くするやり方から、始めてみてはいかがでしょうか。
まず、ここから
「うちの現場だとどう進めればいいか、想像がつかない」。そんな声からご相談を受けています。TSUNAGARU AI LABOでは、業種・規模ごとの現場に合わせて、まず1つの業務からAI導入を伴走しています。無料相談も歓迎です。
よくあるご質問
Q. 取引先にFAXをやめてもらうのは難しいのですが、どうすればいいですか?
A. 取引先のやり方は変えなくていい、というのが今回の考え方です。届く形は今まで通りFAXでも、社内に入った後の「入力」の部分だけをAIで軽くします。取引先には一切影響がありません。
Q. 手書きの注文書でも読めますか?
A. 印字と手書きが混じる注文書でも、AI OCRの精度は実用レベルに近づいています。ただし完全ではないので、AIが読み取った結果を人が最終確認する運用にするのが安全です。「入力」を「確認」に変えるイメージです。
Q. 導入のハードルが高そうです。
A. いきなり全取引先ではなく、まずは1社ぶんの注文書パターンで試すのが現実的です。うまくいった型を、他の取引先へ広げていきます。


