
月末になると、仕入先から請求書がまとめて届きます。経理担当者は納品書の束を横に置いて、品名・数量・単価を1行ずつ見比べ、「この請求、本当に合っているか」を確かめていく。件数が多い会社ほど、この作業に月末の何時間かが消えています。
この確認、手を抜くわけにはいきません。ですが、作業の中身をよく見ると、大半は「合っていることを確かめる」時間です。本当に人の頭が必要なのは、合わなかった数行だけ。今日は、その「合っていることを確かめる」部分をAIに下ごしらえさせる、最初の一歩をお話しします。
請求書チェックの何に時間がかかっているのか
まず、いまの作業を分解してみます。
| 工程 | やっていること | 人の判断が要るか |
|---|---|---|
| ① 集める | 請求書と、対応する納品書(発注書)を探して並べる | 要らない |
| ② 書き出す | 品名・数量・単価・金額を目で拾う | 要らない |
| ③ 見比べる | 請求書と納品書の同じ行を突き合わせる | 要らない(ルールが決まっていれば) |
| ④ 印をつける | 合わない行にチェックを入れる | 要らない |
| ⑤ 理由を確かめる | 返品・値引き・単価改定・入力ミスなどを確認し、仕入先に問い合わせる | 要る |
①〜④は、ルールさえ決まっていれば機械が得意な仕事です。人が本当に担うべきなのは⑤だけ。AIに任せるのは①〜④の下ごしらえ、人は⑤に力を注ぐ——これが今回の考え方です。ただしAIの読み取りや判定にも間違いは混ざるので、慣れるまでは①〜④の結果も人が確かめます。
ちょうど、米国の Chatham Financial が Codex で作った社内ツールで、取引の確認作業を約30分から4分未満に縮めた事例が公開されました。そこでも、ツールがやるのは「集める・見比べる・印をつける」までで、食い違いは人の確認に回す設計です(詳しくはこちらの記事で解説しています)。中小企業の請求書チェックも、まったく同じ構造です。
最初の一歩(4ステップ)
ステップ1:対象を「仕入先1社」に絞る
最初から全仕入先を対象にすると、請求書の書式がバラバラで必ずつまずきます。毎月の件数が多く、請求書の書式が毎回同じ仕入先を1社選んでください。
ステップ2:「照合ルール」を紙1枚に書く
AIに渡す前に、人が普段頭の中でやっている判定を言葉にします。たとえば次のような形です。
- 見比べる項目:納品日・納品書番号(伝票番号)・品名(または品番)・数量・単価・金額
- まず「納品日と納品書番号」で請求書の行と納品書の行を1対1で結びつける(同じ商品が月に何回も納品されるため)
- 1枚の納品書が請求書に2回出てくる場合は「要確認(重複の疑い)」
- 請求書に載っていない納品書が残った場合は「要確認(請求漏れ・翌月回し)」
- 品名は表記ゆれがあるので、品番があれば品番を優先して照合する
- 数量・単価が両方一致し、金額が「数量×単価」になっていれば「一致」
- 1円単位の端数のずれは「要確認(端数)」として分ける
- 納品書にない行が請求書にある場合は「要確認(納品書なし)」
- 返品・値引きの行は、すべて「要確認」に回す
この紙1枚が、今回の仕組みの心臓部です。取引先ごとの名前のゆれが多い場合は、先に取引先マスタの名寄せを済ませておくと、照合がぐっと安定します。
ステップ3:AIに「表に書き出させる」→「見比べさせる」
- 請求書(PDF)と、その月の納品書(PDFまたはスプレッドシート)を生成AIに渡し、「品番・品名・数量・単価・金額」の表に書き出してもらいます
- 書き出した2つの表を、ステップ2のルールと一緒に同じ生成AI(Gemini や ChatGPT など、社内で使っているもの)に渡し、「1行ずつ照合し、判定列に『一致/要確認(理由)』を入れた表を作って」と依頼します
- 返ってきた表をスプレッドシートに貼り付けて確認します。「要確認」の行に色をつけると、見るべき場所がひと目で分かります
ステップ4:人は「要確認」の行の理由を確かめる
担当者は、色のついた行だけを見て、返品なのか、単価改定なのか、先方の入力ミスなのかを確かめます。最初のうちは「一致」の行も念のため目を通し、AIの読み取りミスや判定ミスがないかを確認してください。少なくとも1〜2か月分、人の確認結果とAIの判定を比べ、食い違いがほとんど出ないと分かってから、「一致の行は抜き取りで確認する」など範囲を絞っていきます。

導入前と導入後で変わること
| 導入前 | 導入後 | |
|---|---|---|
| 書類を並べる・書き出す | 担当者が手作業 | AIが表に書き出す |
| 1行ずつの見比べ | 担当者が目で追う | AIがルールどおりに照合 |
| 見落としへの備え | 担当者の集中力頼み | ルールに沿って照合し、AIの読み取り・判定ミスは人が確認 |
| 担当者の仕事の中心 | 「合っていること」の確認 | 「合わない理由」の確認と仕入先への問い合わせ |
| ルールの持ち主 | ベテランの頭の中 | 紙1枚(誰でも引き継げる) |
私が一番大事だと思っているのは、最後の行です。照合のルールが紙1枚になると、ベテランが休んでも、新しい人が入っても、同じ基準で確認できるようになります。時間が縮むこと以上に、この「引き継げる」ことが、少人数の会社には効いてきます。
つまずきやすいポイント
- いきなり会計ソフトへの自動入力まで狙う:まずは「照合結果を人が見る」ところで止めてください。入力の自動化は、照合が安定してからです
- ルールを書かずにAIに丸投げする:「合っているか見て」だけだと、判定の基準が毎回ぶれます。ステップ2の紙1枚を必ず添えてください
- 例外を全部ルールに入れようとする:めったに起きない例外は「要確認」に落として人が見れば十分です。ルールは短いほど安定します
AIの結果を確認する目線のつくり方は、AIに書かせた文章を、社長が3分でチェックする型も参考になります。請求書を「出す側」の転記を減らしたい場合は、請求書づくりの"転記"を無くすをあわせてご覧ください。
まとめ
- 請求書チェックの大半は「合っていることを確かめる」時間。人の判断が要るのは「合わない理由」の確認だけ
- 「集める・書き出す・見比べる・印をつける」をAIに下ごしらえさせ、人は要確認の行に集中する
- 対象は仕入先1社から。照合ルールを紙1枚に書き、慣れるまでは一致の行も人が確認する
経理まわりのどこから手をつけるか、社内で回せる形にしたい方には、社員向けのAI研修や伴走支援もご用意しています。「うちの請求書チェックでも使えるか」を一緒に見てみたい方は、無料相談からお気軽にどうぞ。
よくあるご質問
Q. 請求書が紙やPDFで届きます。それでも始められますか?
A. 始められます。PDFなら生成AIに読ませて「品名・数量・単価・金額」を表の形に書き出させることができます。紙の場合はスキャンしてPDFにする一手間が入ります。最初から全仕入先を対象にせず、件数の多い1社だけで「読み取り→表にする」が安定するか確かめてから広げるのがおすすめです。
Q. AIが「合っている」と判定したものは、もう見なくてよいですか?
A. 最初のうちは、合っている分も担当者が目を通してください。AIの読み取りや判定には間違いが混ざることがあります。少なくとも1〜2か月分、結果を人の目と比べて、食い違いがほとんど出ないと確かめられてから、確認の範囲を「合わない行」中心に絞っていく順番が安全です。
Q. 会計ソフトや仕入管理システムを入れ替える必要はありますか?
A. いいえ。この記事の方法は、会計ソフトに入力する"前"の確認作業を軽くする話です。いま使っている会計ソフトはそのままで、突き合わせの部分だけをスプレッドシートと生成AIで下ごしらえします。システムの見直しは、照合のルールが固まってから考えれば十分です。


