TSUNAGARU AI LABO
ノウハウ約8分

仕入先の請求書と納品書の突き合わせを、AIに"下ごしらえ"させる — 月末の請求書チェックを軽くする最初の一歩

仕入先から届く請求書を、納品書と1行ずつ見比べて確認する月末の作業。全部をAIに任せる必要はありません。「見比べて、合わないところに印をつける」までをAIに下ごしらえさせ、人は"合わない理由"の確認に集中する。中小企業がスプレッドシートと生成AIで今月から始められる手順を整理しました。

中屋 茂美の顔写真

中屋 茂美

TSUNAGARU AI LABO 主宰/株式会社TRAVEL CREATE 代表

請求書と納品書の紙を重ね、ペン先で数量の行を確かめている手元を浅い被写界深度で捉えたクローズアップ写真

月末になると、仕入先から請求書がまとめて届きます。経理担当者は納品書の束を横に置いて、品名・数量・単価を1行ずつ見比べ、「この請求、本当に合っているか」を確かめていく。件数が多い会社ほど、この作業に月末の何時間かが消えています。

この確認、手を抜くわけにはいきません。ですが、作業の中身をよく見ると、大半は「合っていることを確かめる」時間です。本当に人の頭が必要なのは、合わなかった数行だけ。今日は、その「合っていることを確かめる」部分をAIに下ごしらえさせる、最初の一歩をお話しします。

請求書チェックの何に時間がかかっているのか

まず、いまの作業を分解してみます。

工程 やっていること 人の判断が要るか
① 集める 請求書と、対応する納品書(発注書)を探して並べる 要らない
② 書き出す 品名・数量・単価・金額を目で拾う 要らない
③ 見比べる 請求書と納品書の同じ行を突き合わせる 要らない(ルールが決まっていれば)
④ 印をつける 合わない行にチェックを入れる 要らない
⑤ 理由を確かめる 返品・値引き・単価改定・入力ミスなどを確認し、仕入先に問い合わせる 要る

①〜④は、ルールさえ決まっていれば機械が得意な仕事です。人が本当に担うべきなのは⑤だけ。AIに任せるのは①〜④の下ごしらえ、人は⑤に力を注ぐ——これが今回の考え方です。ただしAIの読み取りや判定にも間違いは混ざるので、慣れるまでは①〜④の結果も人が確かめます。

ちょうど、米国の Chatham Financial が Codex で作った社内ツールで、取引の確認作業を約30分から4分未満に縮めた事例が公開されました。そこでも、ツールがやるのは「集める・見比べる・印をつける」までで、食い違いは人の確認に回す設計です(詳しくはこちらの記事で解説しています)。中小企業の請求書チェックも、まったく同じ構造です。

最初の一歩(4ステップ)

ステップ1:対象を「仕入先1社」に絞る

最初から全仕入先を対象にすると、請求書の書式がバラバラで必ずつまずきます。毎月の件数が多く、請求書の書式が毎回同じ仕入先を1社選んでください。

ステップ2:「照合ルール」を紙1枚に書く

AIに渡す前に、人が普段頭の中でやっている判定を言葉にします。たとえば次のような形です。

  • 見比べる項目:納品日・納品書番号(伝票番号)・品名(または品番)・数量・単価・金額
  • まず「納品日と納品書番号」で請求書の行と納品書の行を1対1で結びつける(同じ商品が月に何回も納品されるため)
  • 1枚の納品書が請求書に2回出てくる場合は「要確認(重複の疑い)」
  • 請求書に載っていない納品書が残った場合は「要確認(請求漏れ・翌月回し)」
  • 品名は表記ゆれがあるので、品番があれば品番を優先して照合する
  • 数量・単価が両方一致し、金額が「数量×単価」になっていれば「一致」
  • 1円単位の端数のずれは「要確認(端数)」として分ける
  • 納品書にない行が請求書にある場合は「要確認(納品書なし)」
  • 返品・値引きの行は、すべて「要確認」に回す

この紙1枚が、今回の仕組みの心臓部です。取引先ごとの名前のゆれが多い場合は、先に取引先マスタの名寄せを済ませておくと、照合がぐっと安定します。

ステップ3:AIに「表に書き出させる」→「見比べさせる」

  1. 請求書(PDF)と、その月の納品書(PDFまたはスプレッドシート)を生成AIに渡し、「品番・品名・数量・単価・金額」の表に書き出してもらいます
  2. 書き出した2つの表を、ステップ2のルールと一緒に同じ生成AI(Gemini や ChatGPT など、社内で使っているもの)に渡し、「1行ずつ照合し、判定列に『一致/要確認(理由)』を入れた表を作って」と依頼します
  3. 返ってきた表をスプレッドシートに貼り付けて確認します。「要確認」の行に色をつけると、見るべき場所がひと目で分かります

ステップ4:人は「要確認」の行の理由を確かめる

担当者は、色のついた行だけを見て、返品なのか、単価改定なのか、先方の入力ミスなのかを確かめます。最初のうちは「一致」の行も念のため目を通し、AIの読み取りミスや判定ミスがないかを確認してください。少なくとも1〜2か月分、人の確認結果とAIの判定を比べ、食い違いがほとんど出ないと分かってから、「一致の行は抜き取りで確認する」など範囲を絞っていきます。

請求書と納品書の行が左右に並び、一致した行と要確認の行が色分けされて担当者の確認に回る流れを、瑠璃色と暖色1色で描いたフラットイラスト

導入前と導入後で変わること

導入前 導入後
書類を並べる・書き出す 担当者が手作業 AIが表に書き出す
1行ずつの見比べ 担当者が目で追う AIがルールどおりに照合
見落としへの備え 担当者の集中力頼み ルールに沿って照合し、AIの読み取り・判定ミスは人が確認
担当者の仕事の中心 「合っていること」の確認 「合わない理由」の確認と仕入先への問い合わせ
ルールの持ち主 ベテランの頭の中 紙1枚(誰でも引き継げる)

私が一番大事だと思っているのは、最後の行です。照合のルールが紙1枚になると、ベテランが休んでも、新しい人が入っても、同じ基準で確認できるようになります。時間が縮むこと以上に、この「引き継げる」ことが、少人数の会社には効いてきます。

つまずきやすいポイント

  • いきなり会計ソフトへの自動入力まで狙う:まずは「照合結果を人が見る」ところで止めてください。入力の自動化は、照合が安定してからです
  • ルールを書かずにAIに丸投げする:「合っているか見て」だけだと、判定の基準が毎回ぶれます。ステップ2の紙1枚を必ず添えてください
  • 例外を全部ルールに入れようとする:めったに起きない例外は「要確認」に落として人が見れば十分です。ルールは短いほど安定します

AIの結果を確認する目線のつくり方は、AIに書かせた文章を、社長が3分でチェックする型も参考になります。請求書を「出す側」の転記を減らしたい場合は、請求書づくりの"転記"を無くすをあわせてご覧ください。

まとめ

  • 請求書チェックの大半は「合っていることを確かめる」時間。人の判断が要るのは「合わない理由」の確認だけ
  • 「集める・書き出す・見比べる・印をつける」をAIに下ごしらえさせ、人は要確認の行に集中する
  • 対象は仕入先1社から。照合ルールを紙1枚に書き、慣れるまでは一致の行も人が確認する

経理まわりのどこから手をつけるか、社内で回せる形にしたい方には、社員向けのAI研修や伴走支援もご用意しています。「うちの請求書チェックでも使えるか」を一緒に見てみたい方は、無料相談からお気軽にどうぞ。

よくあるご質問

Q. 請求書が紙やPDFで届きます。それでも始められますか?

A. 始められます。PDFなら生成AIに読ませて「品名・数量・単価・金額」を表の形に書き出させることができます。紙の場合はスキャンしてPDFにする一手間が入ります。最初から全仕入先を対象にせず、件数の多い1社だけで「読み取り→表にする」が安定するか確かめてから広げるのがおすすめです。

Q. AIが「合っている」と判定したものは、もう見なくてよいですか?

A. 最初のうちは、合っている分も担当者が目を通してください。AIの読み取りや判定には間違いが混ざることがあります。少なくとも1〜2か月分、結果を人の目と比べて、食い違いがほとんど出ないと確かめられてから、確認の範囲を「合わない行」中心に絞っていく順番が安全です。

Q. 会計ソフトや仕入管理システムを入れ替える必要はありますか?

A. いいえ。この記事の方法は、会計ソフトに入力する"前"の確認作業を軽くする話です。いま使っている会計ソフトはそのままで、突き合わせの部分だけをスプレッドシートと生成AIで下ごしらえします。システムの見直しは、照合のルールが固まってから考えれば十分です。

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