
「AIに書かせてみたら、日本語としては合ってるけど、なんか うちらしくない」
LABO 伴走中のクライアントから、AI を触り始めてしばらく経つとよく出てくる声です。実はこれ、経営者が普段感じている**「判断基準の言語化」**が始まった証拠でもあります。
この記事では、社長の頭の中にある"うちならこう決める"をAIに引き継ぐ、3ステップのやり方を紹介します。派手なツールも高いプランも要りません。過去に決めてきた判断の"理由"を10件ほど書き出せれば始められます。
この記事の要点
- AI の下書きが"うちらしくない"のは、判断基準(言語化されていない社長の頭の中)が引き継がれていないから
- 3ステップで進める:(1)判断が分かれる場面を3〜5個書き出す (2)過去の判断事例を合計10件ほど"理由"つきで並べる (3)AIに"判断書"として渡してテストする
- AI に任せる領域と任せない領域は、始める前に必ず線引きする
なぜ「うちらしくない」が起きるのか
AI の初期状態は、"世の中の平均値" で動きます。無難で、綺麗で、当たり障りのない答えが返ってきます。
これは AI の弱点ではなく仕様です。AI は、あなたの会社の過去の判断・選ばなかった選択肢・その理由を知りません。だから「合ってるけど、うちらしくない」返事になります。
言い換えると、判断基準を渡せば渡すほど、AI は"うち仕様"に寄っていきます。
AI に任せる領域と、任せない領域を先に決める
始める前に、必ずこの線引きだけはやってください。
| 領域 | AI に任せるか | 例 |
|---|---|---|
| 下書き・整理・要約 | 任せる | メール返信の下書き/議事録の要約/お客様への提案文の叩き台 |
| 判断の"叩き台"作り | 任せる(人が最終確認) | 見積もりの初期案/広告文の複数案/営業リストの優先順位付け |
| 契約・金額の最終決定 | 任せない | 契約書の締結/価格設定/お客様への値引き判断 |
| 人事・採用・評価 | 任せない | 面接判定/給与査定/解雇・降格の判断 |
| 謝罪・クレーム対応の最終判断 | 任せない | お客様への謝罪文の最終確認/取引先とのトラブル対応の落とし所 |
この表を先に社内で共有してから3ステップに入ります。「AI に判断させたのか、人が判断したのか」が曖昧にならないことが、この後の運用を安定させます。
ステップ1: 判断が分かれる場面を書き出す
社長として、この1年で「これはうちの判断が分かれるところだな」と感じた場面を3〜5個書き出します。他社と同じ答えにはならない、あなたの会社の"クセ"が出るところです。
例(LABO 伴走中の中小企業でよく出るもの):
- お客様からの値引き要請にどこまで応じるか
- 新規案件を受けるか断るかの見極め
- 社員が失敗した時にどう声をかけるか
- 忙しい月に、既存クライアントと新規のどちらを優先するか
- 見積もり金額を"きっぱり出す"か"相場を聞いてから出す"か
書き出す時のコツは、「正解が1つに決まらない場面」を選ぶことです。マニュアル化できる作業ではなく、"判断"を要する場面。これが「うちらしさ」の宝庫です。

ステップ2: 過去の判断事例を合計10件ほど、"理由"つきで並べる
ステップ1で出した場面ごとに、過去に実際に判断した事例を全体で合計10件ほど、"決めた理由"つきで並べます。1つの場面から2〜3件ずつ拾えば、3〜5場面で自然に10件に届きます。
架空の数字ではなく、実際の場面を思い出して書くのがポイントです(数字が思い出せない場合は「◯年以上のお付き合い」「他社比較で1万円ほど下げてほしいと言われた」のように、自社の記憶と一致する形で書けば十分です)。
具体的な書き方の例(値引き対応の場面から3件を挙げる場合):
- 事例1: 長年のお付き合いのお客様から「1割引にしてほしい」→ 応じた。理由: 継続的な関係で、次回以降の紹介も期待できる関係だから
- 事例2: 新規のお客様から「他社より下げてほしい」→ 断った。理由: 価格で入る関係は価格で出ていく。最初に条件を歪めない方針
- 事例3: 大口案件で「まとめて頼むから2割引」→ 応じたが条件付き。理由: 前払い・請求書発行後の期日厳守を条件に。粗利は薄くなるが年間で見て黒字
※上記は書き方の"例"です。実際に書く時は、御社の実際の事例の数字・お付き合いの年数・条件をそのまま書いてください。
"理由"の部分が、AI に渡す最重要データです。「応じた/断った」だけでは意味がなく、「なぜそう決めたか」の言葉が、AI にとっての判断ルールになります。
合計10件揃わなければ5件でも構いません。むしろ少なくても質の高い"理由"のほうが、AI の返事は"うち仕様"に寄ります。
ステップ3: AIに"判断書"として渡し、テストする
ステップ1と2をひとつのドキュメントにまとめ、それを AI の「システムプロンプト」や「カスタム指示」に貼り付けます。フォーマットの例:
【うちの会社の判断基準】
■ 値引き対応について(※御社の実際の方針に置き換えてください)
- 長期のお付き合いのお客様には、柔軟に応じる
- 新規のお客様の初回値引きは、原則断る
- 大口案件は割引に応じるが、前払い・期日厳守などの条件をつける
■ 過去の判断事例
(ステップ2で並べた合計10件ほどをここに貼る)
■ このAIに期待すること
上の判断基準を踏まえて、私が下書きを頼んだメール・提案書・返信の"叩き台"を作ってください。最終判断は私が行うので、案は複数出してかまいません。判断基準に迷う場合や、事例と条件が合わない場合は、"人に戻す"提案をしてください。
判断基準と事例の間で条件がずれないよう、判断書に書いた基準は、事例の"理由"と揃うように整理します(例: 事例で「長年のお付き合い」なら、基準側も「長年のお付き合い」で統一。年数を明記する時は事例の年数と揃える)。
貼り付け先は、お使いのAIの「カスタム指示」欄です。Google Workspace の Gemini ならCustom instructions(自分専用の指示)機能(現在は Gmail・Sheets・Slides・Drive・Chat のサイドパネルにも広く効きます)に、ChatGPT なら「カスタム指示」欄に、Claude なら「Projects の指示」欄に貼り付けます。
貼ったら、同じ質問を貼る前と貼った後で AI に投げて、返事を比べます。「うちらしさ」が出てきたら成功、まだ平均値っぽかったら、事例をもう1〜2件足します。
導入前と導入後の違い(イメージ)
3ステップを1周やった会社で、実務のうえでよく見られる変化を並べます。効果の大きさは会社の状況によって変わります。
| 項目 | 3ステップ導入前 | 3ステップ導入後 |
|---|---|---|
| AI の下書きへの手直し量 | 全文書き直しに近くなりがち | 語尾・固有名詞の確認が中心に寄る |
| 社員が AI を使う頻度 | 「どうせ直すから」で使わない社員が出る | 叩き台として使う場面が増える |
| 判断基準の共有 | 社長の頭の中にとどまる | ドキュメント化されて幹部で共有しやすい |
| 新入社員への OJT | 「見て覚えて」に依存 | "うちの判断書"を渡せる |
副次的に、「社長の頭の中を言語化する」こと自体が組織資産になるのが、この方法の面白いところです。AI がなくても、この判断書は次世代への引き継ぎ資料として機能します。
経営者としての受け止め方
私自身、6事業を回している中で「これは前にも似た判断をしたな」と感じる場面が、月に何度もあります。ですが、その判断を言葉にしてスタッフや AI に渡す時間は、意識して確保しないと後回しになりがちです。
AI の導入で一番効いてくるのは、実は「ツールの選定」ではなく 「うちの判断基準を書き出す時間を、社長が持つこと」 です。普段は忙しくて言語化していない"うちならこう決める"を、AI と付き合うことで書き出さざるを得なくなる。これは経営者にとって、しんどいけれど価値のある作業です。この作業を先にやった会社では、AI の使いこなしに違いがついていく感覚があります。
LABO の伴走プログラムでは、この"判断書づくり"を経営者と一緒に行います。第三者が入ることで、"当たり前すぎて書き出せない判断"が言葉になります。ご興味ある方はAI内製化伴走プログラム、または講座・研修にお気軽にご相談ください。
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よくあるご質問
Q. この方法は、どのAIツールで使えますか?
A. 特定のAIに縛られる方法ではありません。ChatGPT・Claude・Gemini など、あなたの会社が既に使っているAIの「システムプロンプト」や「カスタム指示」の欄に、この記事で作る"判断書"を貼り付けて使います。Google Workspace の Gemini なら「Custom instructions」機能で、より広く効かせられます。
Q. 判断基準を書き出すのに、どのくらいの時間がかかりますか?
A. 目安として、社長ひとりで数時間、幹部と一緒にやれば半日ほどで最初の1周が回せることが多いです。会社の状況によって前後します。最初から完璧を目指さず、"3ステップを1周まわす"のに集中するのがコツです。使いながら少しずつ足していく前提で構いません。
Q. この判断基準を、AIに任せて自動で決めさせて大丈夫ですか?
A. いいえ、この記事で作る"判断書"は「AIの下書きを、うちらしくする」ためのものです。最終判断は必ず人が行う前提です。契約・採用・価格設定・お客様への謝罪など、経営者が最後まで持つべき判断領域は、後述の"AIに任せない領域"で先に線引きしておきます。


